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数学の段階別学習法ゼロレベルから全国トップレベルまで

数学の段階別学習法

★このページでは数学の学習を正しく進めていくための指針を学習段階(レベル)別に分類して詳細に解説していきます(第1段階〜第5段階の全5段階から成ります)。
ただし、これらは中学数学はすべて習得しているという前提のもとでの学習手順です。したがって、中学数学が覚束ない(中学数学が未履修であることはないでしょうが、まったく自信がない等)という方は、「数学の学習についてのQ&A」の項目で対策について触れておりますのでそちらをご参照・解決の上以下の学習法に取り掛かってください。ただし、中学数学の習得といっても、高校入試の難問が解ける必要があるということではありません。高校数学への橋渡しとなる各定理・基本公式がきちんと記憶に残っていれば十分です。したがって高校入試用の本格的な問題集をこなすという必要は全くありません。
それではまずは第1段階の学習法から始めます。


★第1段階:高校数学の公式や定理を一通り学習し、それらを利用して解く「基本問題」が確実に解けるようにする

※この学習段階により到達可能な学力レベル(すなわち既にこのラインを超えている場合は省略可)
河合全統記述模試または駿台全国判定模試:偏差値65  駿台全国模試:偏差値55

公式や定理に慣れ親しみ、基本的な計算処理に習熟することがこの学習段階の目的です。ここでは公式・定理の概念や証明法を完全に理解できていなくても構いません。公式・定理をそのまま適用して解く基本問題(教科書で言う章末問題レベルのもの)を網羅的にこなして、「問題を解く」という行為の一連の流れを脳にインプットしていきます。
もちろん、この時点の演習では「言われた通り(例題通り)の手順で公式の当てはめを行っている」に過ぎず、「どういった場面でこの公式を用いるのか」といった本質的な理解を伴っているわけではありません。すなわち暗記数学の基本手順である「理解(納得)⇒実践⇒定着」のうち「理解(納得)」の部分が抜けています。しかしそれでもよいのです。たとえ感覚的なものにしろ、こういった基本問題を解くプロセスを繰り返し実行していくうちに、無意識下であれ最も基本的な形の「解法テクニック」について“パターン認識”ができるようになります。これが以降の学習段階に進むにあたり、必要不可欠な土台となってくれるのです。
この公式・定理を利用した基本問題を解きこなす作業を数学TA〜VC全分野にわたってじっくり行っていきましょう。

この学習段階で用いるメイン教材としては網羅性が最重要であり、加えて独学で学ぶ受験生の場合にとっては解説の詳しさ・分かり易さも必須となります。
現在のところ、多くの受験生が学習のメインに【青チャート】を使っています。第1段階で学習する内容は青チャートで言うと【基本例題】に相当します。もし、青チャートを用いた学習に違和感も困難も感じないということであれば、そのままメイン教材として使用していきましょう。この青チャートは基礎の基礎レベルから標準より少し難しい入試問題レベルまで幅広く網羅的に扱っており、対象レベルがとても広い問題集です。当サイトでいう第1段階〜第2段階までの学習はすべてこの教材で事足ります。各章末のB問題や総合演習問題まで全て学習した場合は第3段階の学習内容も幾分かカバーできてしまいます。たいていの国立大学医学部(旧帝大や単科医科大を除く)であれば青チャートのみで入試対策を終えるのも戦略としては有効です。青チャートを用いた学習が医学部(あるいは東大京大)受験の王道であるという使い古されたセオリーはそれ自体は決して間違ってはいません。しかしこれまでの指導経験から意見させていただくと、数学が極端に苦手な方や全くのゼロから学習をスタートする方にとっては、青チャートをいきなりメイン教材として使用していくのは、その膨大な分量も然ることながら、講義形式の説明を一切排除した構成の面などから、少しオーバーワークであるように思います。分冊になってはいても一冊一冊が重いため持ち運びにも不便です。少し学習を進めてみて、「やはり青チャートは重い」と感じたら思い切って下記の教材に鞍替えしましょう。
ここで青チャートの代用として使用でき、第1段階の学習事項の習得に極めて優れた役割を果たしてくれる参考書兼問題集をご紹介します。
【基礎からのシグマベスト・高校これでわかる数学T+A・U+B・V+C(文英堂)】です。図を意識的に多用していることが特徴的で、編集・全体の構成・個々の解答解説にも明確な工夫が凝らされており、初修および自学自習であっても数学の基本事項を着実に習得できるようになっております。市販の導入用教材の中でおそらく最も分かりやすいのではないでしょうか。まさにゼロからの初修者向けの問題集と言えます。応用問題を削ってある分青チャートよりもコンパクトで、持ち運びにも便利です。青チャートを初めから使っていくのが躊躇される方は、“黄チャート”で代用するよりもこの教材を使用されることをお勧めします。

さて、いずれの教材を用いるにせよ、この学習段階の具体的な手順はいたってシンプルです。
基本例題に対し、いきなり解説やまとめから読んで計算要領・解答手順を“理解”する】⇒【その直下にある練習問題を何も見ずに解いてその手法の定着をはかる】
以上です。1ページ内に1つのテーマが完結しておりますのでとても学習が進めやすいと思います。これを全分野にわたって2周回行っていきます。もちろん2周目は基本例題も自力で解いていきます。この学習段階だけでも上記の学力ラインに到達できますので、侮らず確実に習得してください。


★第2段階:公式・定理を前提とした解法テクニックを一通り学び、それらが複数組み合わさった【定石】を用いて解く、いわゆる【典型問題】を網羅的に学習する

※この学習段階により到達可能な学力レベル(既にこのラインを超えている場合は省略可)
河合全統記述模試または駿台全国判定模試:偏差値72.5  駿台全国模試:偏差値65

●当サイトでは原則として、【解法テクニック】とは特定の式変形・変数の設定・文字の消去といった、問題の解決に有効となる1つ1つの手法を指すこととし、【定石】とは複数以上の解法テクニックを組み合わせた、“パターン化された一連の解答の流れ”を指すこととします。
この学習段階では基本公式・定理を前提とした、受験数学を解くのに有効な特定の式変形・文字の設定や消去といった「解法テクニック」をまずは一通り習得します。
加えて【典型問題】といわれる、【定石】を適用して解答する問題を網羅的に学習します。
「解法テクニック」と「定石」は表裏一体な面もあるので、これらの習得は別々にではなく、分野ごとに同時進行で行っていきます。
この学習段階では【暗記数学】を本格的に実践していくことになります。「理解(納得)⇒実践⇒定着」の一連の手順を繰り返し実践していきます。

第2段階で用いる教材としては、網羅性と解説の分かり易さの2点が必要となります。
青チャートを用いて学習されている場合は重要例題と重要問題(ブラスB問題など章末問題)までをすべてこなせば、この学習段階は終了となりますので第1段階に引き続き使用していきましょう。青チャートの重要例題・重要問題の総数は、第1段階で扱う基本例題・基本問題の問題数の3分の1以下であるため、第2段階の学習は比較的短期で終了するかと思います。第1段階において青チャートを使用していない場合や、第1段階が既に身に付いているといった理由で第2段階から数学の学習を開始する場合は、同等の網羅性とチャートシリーズには無いコンパクトさを兼ね備えた【1対1対応の演習(東京出版)】を第2段階の学習のメイン教材として使っていきましょう。第2段階の学習教材として、当サイトではこちらの教材の方をお勧めしております。ただし青チャートを使用されている場合はわざわざ入手しなくてもよいと思います。

いずれの教材を用いるにせよ、この学習段階の具体的な学習手順は第1段階の手順に「理解(納得)」が加わったもので以下のようになります。
【例題に対し少し問題を考えてから、解らなければ解答解説を読み込んで解答の流れを“理解”する】⇒【その直下の練習問題を何も見ずに解いてその解法テクニック・定石の定着をはかる】
これを全分野網羅的に、2周以上(理解できない事項が無くなるまで)行っていきます。実のところこの学習段階の習得により大抵の国立・私立医学部において十分合格ラインに達します。それほどこの学習段階は受験数学の学習の根幹を為すものであると言えます。決して焦らずじっくり・着実に取り組んでいくことが肝要です。


★第3段階:解答にあたって、問題設定の分析等を通して、用いるべき解法テクニック・定石を自ら「吟味して」選択することが必要な【応用・発展問題】を習得していく。また全公式の証明に挑戦したり、程度の高い定石の習得にもあたっていく。

※この学習段階により到達可能な学力レベル(以下のラインを超えている受験生のみ省略可)
駿台全国模試:偏差値75  東大模試・京大模試:偏差値70

●ここで、当サイトにおける【応用・発展問題】の定義づけをしておきます。おそらく一般的な意義とは多少異なる部分があるかと思います。
【応用・発展問題】とは「問題設定が目新しい」といった理由により、答えに至るのに必要なプロセス(どの定石を用いればよいか)が不可視化(一読しただけでは気付きにくいように)されており、適切な手順で設定の分析を行うことで、用いるべき定石を自ら見つけ出さなければならないような問題を指すこととします。
多くの難関国立大ではこの【応用・発展問題】を軸に問題が構成されていますが、予備校などの難易度評価ではこれらの問題は「標準レベル」として分類されることが多いのであらかじめ覚えておいてください。
第3段階の学習の最大の課題は、「適切な場面で」「適切な定石を」使えるようになることです。
知識自体は第2段階までのもので十分事足ります。しかし【応用・発展問題】は【典型問題】とは異なり、問題文を読んで即座にパターン認識できるような単純な問題構成とはなっていません。ここで非常によく見られる失敗パターンは、根拠のない思い込みで解答に有効でない定石を選択してそれにこだわり、手詰まりとなってしまうことです。きちんと問題設定を把握し、分析することを通して、「結論に至るまでどの情報が不足しているか」・「どの定石を使えば話が一歩進むか」を自ら見つけ出せるように訓練することが必要不可欠となります。

この第3段階の学習では、第2段階までで用いた網羅系参考書・問題集は卒業し、定評のある「実戦用問題集」1冊を学習のメインに据えて進めていきます。
当サイトでは、第3段階の学習に最適な問題集として、【やさしい理系数学】を推奨しております。
この問題集は題名とは異なり、単純な典型問題はあまり収録されておらず、しっかりと考えて定石の選択・適用を行わなければ解けないような応用問題が数多くあります。また、程度の高い定石も一部で扱われておりそれらを習得することで守備範囲の拡大も図れます。
具体的な使用法としては、実際の入試も想定して1題につき30分以内に自力で解答を仕上げることを基本方針とし、30分かけても解決の糸口が見つからなければ、解答解説を熟読して、【何に気付けばその問題が解けたか】【どういった思考プロセスが不足していたか】をしっかりと吟味してください。この学習段階では問題が解けない原因は「定石の不足」にはなく、思考プロセスが不十分であることが多いので、解説を軽く読んで納得して終了という学習は意味を為しません。一方で、自力できちんと正答に至ることが出来たのなら、思考プロセスは正しく身についているということであり、解答解説の吟味は殊更必要ありません。そのメリハリについても留意してください。
【やさしい理系数学】と双璧を為す第3段階のメイン教材候補としては【じっくり考えてたくさん解く本格問題集(TAUB編・VC編)】が挙げられます。この教材は収録問題数の多さ・網羅性が大きな利点であり、十分すぎるほどの演習量を積むことが出来ます。敢えて欠点を述べるとすれば、対象レベルが極めて広く(これ自体は利点ですが)、第2段階の学習内容もかなり含まれているため第3段階の学習としては重複が生じてしまうこと、また「難問演習書」として謳ってはいますが、全体的な難度はそう高くは無いため最上位レベルの受験生の場合少しガッカリするであろうということです。ただ、この学習段階のメイン教材としては素晴らしき役割を果たしてくれますので検討してみて下さい。

メイン教材としては上記のいずれかを使用することになりますが、ここで各公式を「自力で導出する」という学習を併用しておくとさらに効果的です。1つの公式の証明をとってみても、数多くの入試問題を解くのに必須の解法テクニックが詰まっています。証明することを通して、どういった場面でそれぞれの公式を用いればよいか、本当の意味で公式を理解・習得することが出来ます。定石の総確認の意味でも実践力アップの面でも公式の証明は極めて重要です。青チャートをはじめとする多くの網羅系問題集・参考書に公式の導出法が掲載されておりますので頑張って習得していきましょう。


★第4段階:【実戦問題】とよばれる、徹底した問題設定分析や「実験→一般化」を通して解答への道筋を自ら作り出していくといった「思考力の発揮」が不可欠な難度の高い問題を数多くこなしていく

●この段階からの学習は全ての受験生に必要となるわけではありません。主に東大・京大・阪大・単科医大の志望者が対象となります。入試問題では「やや難〜難レベル」に分類される問題が演習の中心となります。
この段階では「新たな定石」を習得する機会はあまりありません。むしろ思考プロセスを洗練させるという作業を主に行っていくことになります。
目新しい問題設定に対して、“簡単なケースでの実験”を行うことで状況を明確にしてから次に一般化されたケースについて考えるという思考プロセスに慣れ親しんだり、問題設定から結論(答え)までを隔てるギャップに対して、「まずこれが分かれば次はあれも分かる」というように課題を細分化(小問化)することで段階を踏んで結論へ詰め寄っていくといった論理展開を習得することが課題となります。

ここでもう一点、第4段階の学習・問題演習で常に心がけて頂きたいことは、「とにかく手持ちのテクニックで極力自力で正答に至る」ということです。発想次第でもっと簡単に正答に至る手段があったり、その時のコンディションが原因でベストな解法に気付かず、効率の良くない面倒な手法を用いていたとしても、きちんと論理的に正しい手順で正解出来ているならばその問題は制覇出来たとみなしていきます。
したがってこの段階の学習で用いる問題集は「解説の詳しさ・分かり易さ」は二の次となり、質・難度が高い問題を網羅していることが絶対条件となります。
おすすめの問題集は【新数学演習】です。ただし、一般的に推奨されている理由とは恐らく異なる理由で私はこの問題集を奨めております。この問題集は解答解説部分に高等テクニックを数多く用いており、それらを習得することが主な目的であるように評されておりますが、これらの高等テクニックは汎用性に乏しく、余程数学に普段から興味を持ち、努力を惜しまない(というより努力と思わない)受験生でない限り、使いこなせません。したがって各問題を極力「自分の手持ちのテクニックで」解いていき(そのテクニックが数学的に正しいものかどうかはこの学習段階では既に判別がつけられるようになっているはずです)、結果的に正答出来たかどうかを確認していくといった使い方を推奨します。やや難問題をターゲットにひたすら数をこなす事を目的に使用するということです。
また、「型にはまった難問」が出題されやすい単科医科大志望の方は【ハイレベル理系数学】の方がおすすめです。詳しくは「おすすめ参考書・問題集プラン」の項目で説明いたします。
東大理三志望の方は【東京大学への数学(駿台文庫)】【東京大学数学(河合出版)】を、京大医志望の方は【京都大学への数学(駿台文庫)】【京都大学数学(河合出版)】を用いて実戦的演習を行い、夏秋の模試に備えておきましょう。ぶっつけ本番で高得点は取れません。【新数学演習】で学習したことを最大限に発揮するためにも(無駄にしないためにも)模擬試験の練習はしっかり行っておきましょう。


★第5段階:分野別に難問演習や体系的学習を行うことで志望校に応じた徹底した補強を行っていく。さらに余裕があれば各分野について出題され得る問題パターンや重要な定石をリストアップしたり要点をまとめるといった思考訓練を実践する。

●この段階に到達するころには既に全国トップレベルの実力に到達しているはずです。これよりさらに実力錬成をはかっていくかどうかは、他の科目の学習との兼ね合いもありますし、時間的余裕を確保した上での決断事項といえます。時間と気力の問題をクリアしているという前提のもとで、第5段階の学習内容にについて解説してまいります。

第4段階までの学習を堅実にこなしてきた受験生の中には、さらに志望大学に応じて分野別に万全な補強をしておきたい方も当然おられると思います。例えば、京大医志望であれば京大に頻出の【確率】【整数】についてどんな難問でも解ける状態まで仕上げたいと考えるのも自然な流れですし、単科医科大学志望であれば、【数V微積】について難問演習はもちろん体系的な理解もしておきたいと思われるかもしれません。
そのような方々におすすめしたいのが東京出版の分野別ハイレベル教材です。
【解法の探求・微積分】【解法の探求・確率】【マスター・オブ・整数】【マスター・オブ・場合の数】などがあります。特に補強したい分野に絞って演習していきましょう。特に【解法の探求】に関しては大学入試用教材として最高難度を誇り、取り組みがいのある名著といえます。

また、分野によらず積極的に難問に挑戦していきます。使用する教材ですが、東大・京大の過去問を集めた【東大の理系数学・25カ年】【京大の理系数学・25カ年】が最適であると思います。この問題集は各問題に難易度がAランクからDランクの4段階評価で付けられていますが、Cランク・Dランクに絞って基本的に時間無制限という条件で解いていきます。実際の入試では捨て問とするのが賢明な難問揃いですが、原則的に解答を導くまでは答えを見ないようにしましょう。こうした徹底した思考訓練を行った末に導いた結論は鮮明に記憶に残り決して忘れませんし、以降同様のケースに遭遇した場合は短時間で解決できるようになるでしょう。

さらに時間に余裕があれば、受験数学の各分野について、出題頻度の高い問題パターンや重要な定石についてリストアップしたり要点をまとめるといった作業を行っていきます。もし何らかの機会に学習効果の高い難問に出会うことができたら新たにリストに追加していきます。これは本来は指導的立場にある者が日常的に行っていることなのですが、受験生が実践しても極めて有効な思考訓練となり、習熟すれば模試や入試本番で問題を上から見下ろすように余裕をもって解答することができるようになります。第4段階までで相当数の問題をこなしていないと実行不可能な学習であることは当然ですが、もし余力があるならば第5段階までの学習の総仕上げとして実践されてはいかがでしょうか。


※以上で受験数学の学習は完了です。といっても第5段階まですべてこなすことは並大抵のことではなく、3〜4段階の学習までで入試本番を迎えるというケースが殆どでしょう。それぞれの志望校・目標に応じて、現時点で習得が必要な学習段階を見極め、じっくりと着実に実践していくことが何より重要です。
それでは次項にて各学習段階のおすすめの教材を見ていきましょう。